東京高等裁判所 昭和55年(ラ)977号 決定 1980年9月25日
抗告人
北関東リース株式会社
右代表者
大野栄勇
右代理人
澤田利夫
相手方
有限会社大二商店
右代表者
長谷川次郎
主文
原決定を取り消す。
本件を前橋地方裁判所に差し戻す。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は、別紙<省略>記載のどおりである。
よつて、審案するに、一件記録によれば、本件の経過は、相手方が有限会社消費者市場に対して有する金七〇万四七九〇円の売掛代金債権を保全するため、同会社を相手どつて原審裁判所に有体動産仮差押命令を申請し(前橋地方裁判所昭和五四年(ヨ)第一七七号事件)、右債権額を解放金額と定めた仮差押決定を得て、別紙物件目録<省略>記載の有体動産に対して仮差押を執行したところ、抗告人において、右仮差押解放金額を供託したうえ、原審裁判所に対し、右有体動産は自己の所有に属しかつ抗告人は仮差押債務者(有限会社消費者市場)に対する債権者であるとして、債権者代位権に基づいて本件仮差押執行の取消しを申し立てたが、右申立てを却下されたため本件抗告に及んだものであることが認められる。
ところで、債権者は、債務者と第三者との間に既に開始された訴訟を追行するための訴訟手続上の個々の行為を債務者に代位して行使することは許されないけれども、債務者と第三者との間の権利ないし法律関係につき、債務者に代位して訴を提起し、強制執行を申し立て、或いは事情変更ないし特別事情による仮処分取消の申立てをする場合のように、既存の訴訟手続とは別個の手続において、新たに実体法上の権利ないし利益を主張する形式としての訴訟行為をすることは許されるものと解するのが相当であるところ、本件仮差押執行取消しの申立ては、前記仮差押決定そのものの違法ないし不当を争うものではなく、仮差押の適法、違法や当不当の問題とは別に、仮差押解放金額の供託によつて仮差押執行の取消事由が新たに発生したとして、該執行の取消を求めるものであるから、債権者において仮差押債務者に代位してこれをなし得るものということができる。
しかるに、原判決はおよそ抗告人は仮差押債務者ではないから執行取消の申立てをすることは許されないとして抗告人の申立を却下したことが記録上明らかであるが、抗告人においてその主張のとおり仮差押債務者に対する債権者の地位を有するならば、これに代位して仮差押執行の取消しを求め得ること前記説示のとおりであるから、原決定はこの点において法解釈を誤つたものであつて、取消しを免れない。
よつて、原決定を取り消し、進んで抗告人がその主張にかかる債権を有するか否かの点について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すこととし、主文のとおり決定する。
(杉田洋一 蓑田速夫 松岡登)
物件目録<省略>